働く、ってなんだろう。社会人としての自分の価値を考えさせられた、1.5時間の講演。<神戸大学PVC×クラフトチョコレートブランドMinimal山下さん>

神戸大学PVC×Minimalのアイキャッチ

神戸大学バリュースクールのイベント、「Professional Value Creatorsプロジェクト 第2回講演会 「価値を生み出す心の向け方とは~チョコレート×価値~」」(2020年9月30日に開催)に参加してきました!

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ちなみ、神戸大学はわたしの母校です。2016年に経済学部を卒業しました。

カカオと砂糖以外を使用しない、革新的な「引き算のチョコレート」。その美味しさとこだわりは多くの人を虜にし、わずか3年で国際大会の最高金賞を受賞するまでに―。 今回の講演会では、そんなチョコレートの生みの親である山下氏から、「価値創造」の秘訣をお聞きできる絶好の機会です。 「将来のビジョンを模索している」「社会に貢献できる人材になりたい」とお考えの皆さん、是非ご参加ください。

イベントページより

今回の講演会に参加したきっかけ。

講演のことを知ったのは、Minimal山下さんのツイートでした。

この講演会、神戸大学の学生さんだけじゃなくて、一般の人も参加OKでした。ありがたいことです。

もともとMinimalの山下さんのことを知っていたのと、母校がやっているイベント、ということで申し込みました。

はじめて山下さんのことを知ったのは、2019年のnoteのイベントに参加したときです。「チョコレートの人と、チーズケーキの人が登壇するんだ!おもしろそう!」くらいのノリで応募しました。

実はこのイベント、大人気で抽選になったんですけど、運良く当選して参加できました。こういう抽選系のやつ、昔からなぜかよく当たるんですよね。ラッキー!

チョコレートと女性

しかも、わたしは昔からチョコレート大好きなんですよ。好きすぎて、名前にGが付く高級チョコレート店でアルバイトをしていたほど。

そこでバイトしてたわたしが一番おいしいと思うのは、500円玉くらいの大きさのミニ板チョコタイプのミルクチョコレート。ひとつひとつ個包装のもの。

これを包装紙ごと手のひらではさんで温めて、ぐにゃりと曲がるくらいになったら、チョコレートをそっと舌の上に置いて噛まずに少しずつ溶かして喉に流し込む。これが最高にうまいんですよ!!!

そう、Gのチョコレートは、高級チョコレートでよくある「なめらかなタイプ」です。

でも、noteのイベントではじめて食べたMinimalのチョコレートは、今まで食べてきたチョコレートと全然違いました。

Minimalのチョコって、開けた瞬間にめちゃくちゃ良い香りがして、その段階でもうびっくりしました。こんなに香るチョコレートがあるのかって。

Minimalのチョコレート
noteのイベントの会場でもらった、Minimalのチョコレート。開けたら香りがぶわっと広がります。

そして小さく割って、口に入れてなめてみたら、ザリザリしてるんです。荒い。さらに、噛んだらザクザクしています。なにこれ楽しい!そして、口中がカカオの香りだらけになるんですよね。なんだこのチョコ。こんなチョコレートがあるんだ!と感動しました。

話もおもしろかったと思うんですけど、それよりもチョコレートがおいしすぎて。わたしの記憶は、話の内容よりも、チョコレートのおいしさがほとんどを占めていました。

そしてイベント後、帰り道に取っておいた分を少しだけ取り出して食べて、やっぱりすっごくおいしくて。なんだかうれしくなっちゃって。表参道駅までの道のりで、気付いたらちょっとだけスキップしちゃってました。

あなたは、食べ物がおいしくて、スキップしたことがありますか???わたしは今までなかったですよ。26歳の大人をスキップさせる力が、このチョコレートにはありました。

それから、ずっとMinimalのファンです。

もちろん昔バイトしてたGのチョコも好きで、Minimalのチョコも好き。これはどっちがいいとかじゃなくて、好きなものが倍になったんです。今でもGとMinimal両方のチョコレートを買うし、単純に楽しみなものが増えて幸せだな、と思っています。

山下さんとMinimalのチョコレート。

ちょっと長くなっちゃいましたが、わたしのMinimal愛の話はこのくらいにしておきましょう。

講演会当日の17時、Zoomをつなぐと、30人ほどが入っていました。えっ、少ない!300人くらいいるかと思ってたのに!

「リアルの場だったら、Minimalのチョコレートを食べてもらいたかったんですが…」という山下さんの自己紹介を聞きながら、本当にそう、これは食べてみないと良さがわからないかもなあと思いました。

わたしはもちろん、Minimalのチョコレートを食べながら参加!一番好きなNUTTYです!(もうぜんぶ食べたので空っぽ)

そこからMinimalのお話が続いて…

Minimalのチョコレートは、引き算のチョコレート。

原材料は、「カカオ豆」と「砂糖」のみ。ふつうはミルクやバターや香料を使うが、Minimalのチョコレートは味わいを足すのではなくて、引き算する。これは和食の考え方。Minimalのチョコレートは、チョコレートの日本的な再解釈で生まれたもの。

2100年に、この世界が豊かであるために。

今の日本は、自分たちの母親や父親、おじいちゃんやおばあちゃんの代が豊かにしてくれた。それを食い潰すだけじゃなくて、日本人の感性や技術を武器にして、外貨を獲得していきたい。そして2100年のときに、世界が、日本が、もっと豊かであるために、今自分たちのビジネスでどういう価値を発揮していくべきなのか考えて、仕事をしていく。

D2Cモデルの、クラフトチョコレートブランド。

世界中のカカオ農園に行って、仕入れて、白金高輪の工房で職人が手仕事で製造。そして各店舗やオンラインストアで販売まで、一気通貫で手がけている。

ちなみに、通常は「商社がカカオ農園から大量に仕入れる」→「大きな工場でチョコレートの生地をつくる」→「その生地をお菓子メーカーさんやパティシエさんショコラティエさんが仕入れて、付加価値を付けて消費者に届ける」という流れだそう。

でもカカオ豆の仕入れを商社に任せず、自分たちで買い付けから行なっているとのことでした。今は新型コロナの影響があって難しいそうですが、山下さんは通常、買い付けや技術指導のために毎年4ヶ月ほど赤道直下の国々で過ごしているのだとか!

ミッションは、「チョコレートを新しくする」。

チョコレートを新しくする。そのために取り組む、3つのプロジェクト。そこから生まれる2つの価値。

1. カカオ農園との関係性を新しくする。
2. チョコレートの製法と風味を新しくする。
3. チョコレートの楽しみ方を新しく。

価値1:生活と誇りの変化
価値2:食による豊かさ

カカオ豆の価格は、ニューヨークやロンドンなどのマーケットで、1kgいくら、と自動的に決まってしまうそう。なので、カカオ農家さんが儲けを増やしたいなら、量を増やすしかないんですね。

そうじゃなくて、質の概念を取り入れて、フェアトレードで高く買う。質向上のための技術も指導する。消費者には、産地による違いなど新しいチョコレートの楽しみ方を提案する。

こうして、農家の人には質の高いカカオを生産する誇りや生活の変化を、消費者には食の豊かさや新しい価値を届けていくことができます。これをすべて含めて、「チョコレートを新しくする」ということだそうです。

日本の発酵技術、そしてSDGs。

発酵技術も、クールジャパンのひとつだと思う。発酵という日本の知的財産技術をODAで共有して、高付加価値化し、SDGsを促進する。

チョコレートができるまでに、カカオ豆を発酵させる工程があります。その発酵の部分は日本が高い技術を持つ分野であり、ODA(Official Development Assistance、政府開発援助)の活動としても山下さんは技術支援をしているそうです。

店舗は、体験する場所へ。

試食はたくさん出るほうがいい。店舗での滞在時間は長いほうがいい。今までなかった引き算のチョコレートを食べてもらって、スタッフから説明を聞いてもらって、新しいチョコレート体験を届けていく。

これはふつう、小売店では逆なんですよね。試食がたくさん出ちゃったらその分お金がかかるし、滞在時間は短くて回転がよくて多くのお客様に次々と買ってもらうほうが効率が良いはず。

でも、経営効率だけを考えるんじゃなくて、新しい価値を届けることを重視しているそうです。チョコレートを食べてもらって、Minimalの世界観を伝えて、共感してもらって、さらにファンからMinimalのことを広めてもらう。そういうことを大切にされています。

三方良しの輪。

カカオ農家からフェアトレードで良質なカカオを買って、消費者に新しいチョコレート体験を届ける。たくさん売れれば、それだけお客様に価値があると思ってもらえていて、新しいチョコレート体験を通じて豊かになってもらえている証拠。そのための努力をおしまずチョコレートを作り続けて、そして自分たちの利益も取りつつ、次の年にはもっとたくさんのカカオを農家さんから買うことができる。


これらのお話を聞いていて、「自分の仕事ってどうだろう」と考えさせられました。

わたしは広告業界でデータ分析のお仕事をしていますが、新しく何かモノを生み出すことはないんですよね。作っている会社に寄り添って、いろんな人に広めていくのが仕事で。作り手と買い手の間にはさまっている存在なんです。

だからもしかしたら、自分がいなければ、もっと安く提供できた商品があったかもしれません。わたしの分、商品に上乗せされるか、もっとたくさん売らないといけなくなるでしょう。

そういう状況で、「自分は介在価値を発揮できているのだろうか?依頼主にも、消費者にも、メリットがある仕事ができているんだろうか」と思いました。「自分がいてよかったのかな、自分が仕事をすることで、世の中を少しでも豊かにできているのかな?」って。

それでいうと、前職でコピーライターをやっていたときのほうが、自分の介在価値を感じていたかもしれません。わたしは数年前、求人広告のコピーライターだったんですよ。それこそ新人だったころは、人が採用できるかどうかは、求人のスペック(給与など)でほとんど決まるでしょ、って思っていて。

求人広告のイラスト

でも、同じ職種・給与・休日・福利厚生の仕事が仮にあったとしても、会社によって仕事内容や範囲は変わってきますし、やりがいや大変さも全然違うんですよね。

だから、ある人には楽しくて仕方ない仕事だけど、別の人にはすごくつらい仕事になる場合があるんです。そういうことも、ストーリーや理由を盛り込んで求人広告が書けるようになったとき、これはコピーライターの自分が書いたから、良い仕事を合う人に見つけてもらえたな、って思えました。

ああ、そういうの、今の仕事だとあんまりわからなくて。なんのために、毎日毎日データ分析をしているのか。

お給料はそれなりにもらえているけど、それこそコピーライターのときの倍くらいもらってるかもしれないけど…毎日いつも〆切まで時間がなくて、考えても考えてもわからなくて、夜も十分に寝られずにぐちゃぐちゃになって必死で文章を書いてたあのころのほうが、今より仕事としてはずっと充実していたかもしれません。

「本当の豊かさ」とは。農家さんに教えてもらったこと。

これは山下さんの実体験。

山下さんはとある国でチョコレートづくりのワークショップを行なって、カカオの質によってチョコレートの味が違うことを農家さんに体験してもらって、カカオ豆の質を上げる方法も教えた。農家さんもやる気で、山下さんの指導を熱心に聞いていた。

そして、「こうやって質の高いカカオを作ってくれたら、来年買いに来るから。市場の価格よりずっと高く買うから」と約束して、その翌年行くと…ほとんどの人が教えたことをやっていない。そして山下さんにカカオを売ってくれない。「3倍の値段でカカオ豆を買います」と言っても、なかなか売ってくれない。

なぜなのか。

それは、高く買うと言っても、山下さんは少量しか買えないから。だったら1/3の価格でも大量に買ってもらえるほうが、その時点では農家さんはより多くのお金を手に入れることができる。だから子どもも労働力として使うし、量をつくることを目指すことになる。

そんな中、とあるカカオ農家さんだけは、カカオを買わせてくれたし指導したこともやってくれていた。この人だけは、山下さんが今よりもずっと少量しか買えなかった時代から取引してくれていた。

今はそんな風に思っていないが、山下さんは当時「わざわざこんなところまで足を運んで、フェアトレードで、いいことしてるのにどうして売ってくれないんだ!」と思うこともあり、自信をなくしていた。そしてその農家さんに、情けないながらも「どうしてうちと取引してくれるんですか?」と聞いてしまった。

そのとき農家さんから言われたことが、山下さんのカカオのバイヤーとして人生を変える言葉だった。

「自分は、朝から晩まで汗水たらして働いてきた。量をつくっていけば収入は増えるかもしれないが、僕は自分の子どもや孫の代に、自分と同じように生活を崩してまで働かないといけない、という働き方をさせたくない。でも、お前のところは、量がたくさん取れなかったとしても、質を上げていけば収入を増やせるんだということを僕に教えてくれた。だから僕はお前とやるんだ」

それを聞いて、山下さんは思わず涙が出た。救われた気がして。そして、本当に豊かなことって、選べる自由を持っていることなんだな、と気付いた。

そこからスタンスが変わって、自分ができることは選択肢を世の中に提示することだと考えるようになった。選ぶのは農家。大量生産で市場の価格で買ってもらうのもひとつの選択肢だし、少量でも質を高めながらフェアトレードで買ってもらうのもひとつの選択肢。自分たちが施しているわけでもないし、偉そうに上からものを言うわけでもない。ビジネスの対等な存在であり、選んでもらうだけ。

だから、農家さんには「僕たちはこういう風に買い付けをするけど、どうですか?」っていう選択肢を提示するし、消費者には「お菓子も高級ショコラもありますけど、たまには僕らのみたいな素材の引き算チョコレートはどうですか?」って選択肢を置きに行くだけ。それを選ぶ選ばないはみんなの自由。

こうして、今までになかった選択肢が増えることで、「自分が選ぶという豊かさ」を得てもらう。それを自分たちの事業を通してできるのであれば、こんなに幸せなことはない。

なんか…こう…この話を聞いてぐっと来るものがあって。自分も、山下さんのように、世の中に選択肢を増やす仕事ができているのか、いやできていないって思って。

自分なりにそういうのを作っていきたい。小さなことでいいから。そう感じました。

圧倒的な、量。そして、直感と合理。

あと、質問コーナーで面白かった話を2つほどピックアップすると…

圧倒的な量が、質に転化する。

<質問>
山下さんは、もともとパティシエとかショコラティエとか、チョコレート関係の仕事をしていたわけではないそうですが。このクラフトチョコレートの事業を立ち上げる時、最初からカカオの目利きはできたんですか?

<回答>
最初からセンスがあったわけじゃない。圧倒的な量が質に転化した。最初は、カカオの品評会で賞をとっている農園に片っ端からアタックして、現地に行ってサンプルのカカオを入手して戻ってきて、それをひたすらチョコレートにして食べた。そして量を重ねると自分たちの中で基準ができていった。

味や香りを11項目10段階で評価していって、「自分たちの中ではこれを評価しよう」「お客様に売れているのはこれだから、これが新しい価値になるだろう」というのをみんなでやって、仕組みにして回していっている。

これは個人の体験でいうと、日本酒でもそうでした。

大学生のときに、日本酒専門店でアルバイトをしていたんですけど、バイト先の店長さんがおもしろい人で。バイトしてた学生に名刺を作ってくれたんです。会社の名刺があれば、業者向けの日本酒の試飲会に参加できるので、そこでいろんな日本酒を勉強できました。

試飲会で端から端までいろんな日本酒を飲む。気になったことを酒造会社の人に質問してみる。さらにバイト先の店舗でも、入荷した日本酒をぜんぶ試飲する。

すると自分の中で、「こういうのが好きな人には、こういうタイプをおすすめしてみよう」、みたいな基準ができていきました。日本酒初心者の人が来ても、日本酒に詳しい人が来ても、その人に合うお酒をおすすめできるようになったんですよね。

なので、量をこなすと質になる、っていうのはすごく共感できました。

直感と合理。そして、熱い想いがあるから、ここまで続けられた。

<質問>
どうしてチョコレートではじめようと思ったんですか?

<回答>
ものづくりならなんでもよくて、ワインとかクラフトジンとかいろいろ考えていた中で、チョコレートを選んだのは直感。創業メンバーである職人がつくった、試作品の荒々しいチョコレートがオレンジみたいな味がして、それに感動した。もちろん合理的に決めた理由もいくつもある。

起業だと、合理的な理由でスタートしてもうまくいかない。つらいことやめたいことがたくさん起きる中で、「本当にやりたいかどうか」っていう胸の熱い想いがないと、前に進めなくなるから。

直感に合理を足していきながら、あとは誰もやっていないことをまずやってみること。それがいいと思う。

山下さんのお話からは、ここに書けないような大変なことがたくさんあって。危険な目にも遭ってて。それでも続けてこられたのは、強い想いがあったから、というのが心に残りました。

自分でも考えてみると、起業ほどの大変なことはないものの、毎日の仕事でつらいことも少なくありません。でもがんばって続けられているのは、やっぱり広告業界が好きだからだと改めて思いました。

まだ就職活動をはじめる前に、とある広告系のイベントの二次会で、有名なコピーライターやクリエイティブディレクターが参加している中に潜り込んだことがあったんです。そのときに、みんなお酒を飲みながら、ずっと仕事の話をしていて。かなり遅い時間まで飲みましたが、最初から最後までずーっと仕事の話。この広告がよかった、もっとこうできたのでは、今度はこんなことがやりたい。それを隣で聞いていて、この人たちは本当に広告の仕事をが好きなんだなと強く感じました。

それが記憶に残っていて、こういう愉快で一生懸命なおじさんたちと一緒に働きたい、自分も広告業界の一員としてがんばってみたい。そう思ったのが最初のきっかけで、今もわたしは広告業界のはしっこにいます。

まとめ:価値とは、主観と客観の融合から生まれる。

講演会の最後に、今回のイベントを開催した神戸大学V.School(PVCはその中の1プロジェクト)のスクール長である國部先生は、こうまとめています。

「価値というのは、主観と客観の融合でしか生まれてこないんじゃないか、と考えています。今日、山下さんのお話で出てきた”直感”と”合理”は、まさに自分の想いという主観と、合理という客観があって、その往復運動で価値が生まれていくというのを伝えていただいた。大変勉強になりました」

今後わたしは価値について考えるときに、この主観と客観の融合、っていうのを思い出すことになるんだろうなと思います。

価値ってなんだろう、自分も価値を作れるようになりたい、世界に選択肢を増やして豊かにしたい。いろんなことを考えた1時間半でした。これを書き終わった今は、まるで1本映画を見終わったような気持ちです。