
「妊娠は病気じゃないんだし、座って作業するデスクワークならふつうにできるよね?」なんて思っていたわたしを引っ叩きたい。自分が妊娠してはじめてわかったが、無理だ。
ベッドで横になりながら書くSQL
在宅勤務。約20万円かけて用意した高級ワークチェアのアーロンチェアに腰掛けて、Macbook Proの電源を入れる。昇降自在なFlexiSpotの電動デスクをほどよい高さに調節して、快適なワークタイムだ。
だがどうしたことか、10分も経たないうちに、体調に異変が出る。胸からお腹にかけてのあたりがしんどい。ふぅっと息を吐く。まだメールチェックしかできていない。
今日中に集計しないといけない依頼を確認して、抽出条件をひとつずつ見ていく。手元のホワイトボード(A4サイズのnu board、とっても便利)に文字を走らせて、データとデータのつながりを整理。あれっ、このデータの「999」ってどういう意味だったかな……と確認しようにも、データの定義書が無い。うーん。これは誰に聞いたらいいんだっけ?
そうこうしているうちに20分ほど経って、吐き気が強くなってきた。妊娠してから、座って作業していると、いつもこうだ。一度立ち上がってみるが、やっぱりしんどい。
抽出方法はだいたいまとめられたので、PCとホワイトボードを持って寝室へ。横になって目を閉じて2分ほど休憩したあと、寝そべったままで少しずつキーボードを叩いてSQLを書いていく。WITH piyo AS ( SELECT …… あっ、そろそろ打ち合わせの時間だった。今日のは社内の人だけだし、顔出しもしなくていいので、このままベッドの上で参加しちゃおう。
「あー、ダッシュボードの数字がおかしくなっている? ちょっと確認しますね。パッと見た感じだと更新がコケてるわけじゃなさそうなので、どこだろう、すみません確認します」
打ち合わせ後、さっきのデータ抽出の続きをやろうとまたSQLを書きはじめる。打ち込み終わり、ざっとチェックして、実行。エラーだ。あー、ここか。またホワイトボードで頭の中を整理して、SQLを書く。再度実行。いけた! 依頼された形になっていることを確認後、今度はダッシュボードのトラブル対応へ。
妊娠する前の自分からすると、冗談みたいなやり方で仕事をしていた。寝っころがって作業したり会議に参加したりするなんて、お行儀は良くない。
でもそんなこと言ってられないのだ。それでもやるしかない。わたし以外は、わたしが妊娠する前と何も変わらない状態で回っているのだから。
妊娠前のわたし、妊娠後のわたし
お腹がすいたら食べたいものを食べ、やや睡眠時間が短くても元気で、残業も休みの日の自己研鑽もがっつりやれる。そんな妊娠前の自分。
「妊娠は病気じゃないんだし、安定期になったら、もう普段どおりなんだっけ? 食事とか運動とかにも多少気をつかうだろうけど、そんなに特別扱いしなくてもいいよね」と思っていた、妊娠前の自分。
そんなの、ぜんぶひっくり返ってしまった。
妊娠後は、体調不良に振り回される日々。
わけもなく眠い。特に食後は目が開かなくなるくらい、猛烈に眠い。そして、食欲は常に無い。食事の時間が来たら、とりあえず食べておくか、って感じ。でもちょっとしか食べられない。食べたいもの・食べられるものは数日で変わる。なんだかずっとだるいし、うっすら吐き気がある。できれば基本は横になっていたい。歯磨きで、歯ブラシを口に入れたら吐くことがあるので、ほぼ磨けない。虫歯になりそうでこわい。とにかく元気がない。なるべく出かけたくない。通院で15分くらい歩くのもしんどい。
でも吐くことは少ないし、これでもつわりはかなりマシな方なんだろうなあ、とも思う。
あんなに好きだった仕事も、「やるしかないが、できれば休みたい」くらいのテンションでやることになる。
椅子に座っているだけでも、いつもちょっとしんどい。打ち合わせが入っていなければ、昼食後はちょっと仮眠を取らないとやってられないくらい眠い。眠気がすごくて、作業でミスしないか心配になるし、実際ミスが増えた。ミスしないように確認をしっかりするけど、それでも抜け漏れが発生する。とにかく横になりたい。横になりながら作業するときもよくある。
もう、つわりの時期は、できれば多少成果を犠牲にしてでも、仕事の作業量を減らしたい。
終業後の勉強も、このつわり中はやる気が出ない、というか出せない。今まで勉強にあてていた時間はぜんぶ睡眠時間になる。
「能力が足りない分は、大量の時間投入と頑張りで対応!」ってなんとかしていた自分はもうどこにもいない。何時間でもSQLを書き続けられて、必要に迫られれば深夜でも作業できる自分は、つわりの中で消え去ってしまった。


